絵の具としての宝石について

ジュエリー

宝石は、古くから権力の象徴として王冠や剣に埋め込まれたり、貴婦人たちの装飾品として
美しく煌めいてきた数々の歴史があります。
護符などのように、時にはそのパワーに助けられたりする一方で、宝石が持つ眩い美しさゆえに、人間の欲望が招く、血塗られた歴史も数多く伝えられてきました。

しかし宝石には、そのような様々な逸話とはまた別の一面があります。
実は皆さんがよく知る有名な絵画にも、一部の色に宝石が使われていることをご存知でしょうか?
身に着けるための装飾品としてだけではなく、原石を細かく砕いて絵の具として使うのです。
美術鑑賞がお好きな方ならご存知かもしれませんね。

キラキラ光る宝石が絵の具として使われるなんて、ラグジュアリーでとっても夢があると思いませんか?
では、一体どのような石が、どんな絵画に描かれているのでしょうか?
今回は、絵の具として使われる宝石についてご紹介していきます。

岩絵の具(いわえのぐ)

簡単にいうと、天然石(鉱物)を砕いた粒子に接着用に膠液 【ニカワエキ】 (糊のようなもの)を加えて混ぜたものを岩絵の具と言います。
絵の具と聞くと、チューブ状の物を思いうかべると思いますが、岩絵の具の特徴は粉子状で艶のないマットな質感です。
天然でつくられた「天然岩絵の具」と人工的に作られた「新岩絵の具」「合成岩絵の具」があります。

天然の岩絵の具は天然の宝石で作られた絵の具なので、希少で高価な “画家泣かせ” の絵の具と言われています。
使用される宝石は、美しい群青色のラピスラズリ、アズライト(藍銅鉱 らんどうこう)や、緑青色の孔雀石と言われるマラカイト、水色のトルコ石に赤の辰砂などがあります。

同じ素材を使っても粒子の荒さによって色が変わり、細かくなるほど明るく淡くなるそうです。
文化財の修復などにも使われています。

ウルトラマリンブルー

絵の具になる宝石として一番有名なのが、半貴石ラピスラズリです。
トルコ石と共に12月の誕生石としても知られており、世界最古のパワーストーンとも言われています。

ラピスラズリは、鉱物として最初に身に着けられ、宝石取引された石の一つとして長い歴史を持ちます。
古代エジプトや遺跡等でも、彫刻や研磨された装飾品が多く見つかっています。

日本においても正倉院宝物の紺玉の帯飾りが有名です。
美しく深い青色の宝石として中央アジアや中国、そして日本でも珍重されてきました。
その美しい青色は、古くから細かく砕いて顔料としても使用されてきました。

ちなみに、日本の絵画の “岩群青” はアズライト(藍銅鉱 らんどうこう)が主に使用されてきました。
日本ではアズライトの鉱床が豊富だったため、ラピスラズリの代わりに日本画で重要な役割を果たしてきたそうです。

ラピスラズリは、産出国であるアフガニスタンから海を渡ってヨーロッパに運ばれたことから、
「ウルトラマリンブルー (海を越えてくる青) 」 と呼ばれ、画家たちの憧れの深い青でした。
産出国が限られ、作りだされる工程も非常に手間がかかっているため、当然価格も高価でした。
なかでもラピスラズリは、他の絵の具の100倍の価格だったとも言われています。

最も有名な絵画に、フェルメールが描いた「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」があります。
口元に笑みを浮かべる少女の頭には、はっと目を惹く青色のターバンが巻かれています。
「フェルメールブルー」と呼ばれ、添加物が何も入っていない天然のラピスラズリのしなやかな美しい色彩の存在感が、体内に染みわたるのを感じたのではないでしょうか?

また、「ヴァージナルの前に座る女」という絵画では、ラピスラズリをカーテンにふんだんに使用し、女性の青いドレスにはラピスラズリとターコイズを混ぜて身体の影を強調させています。
金よりも高価な宝石で作られたこの青い絵の具を、フェルメールは惜しみなく贅沢に使用しています。

バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの「最後の審判」。
ここで描かれた空の青も、ラピスラズリが使用され、神々しく描かれています。

画家たちの苦難

宝石には魔性の魅力があります。
絶対に手に入れたい、あの輝きを人には渡したくない!
取り憑かれたかのように人を虜にしてしまう美しさは、まさしく魔性そのものではないでしょうか。
それは、画家たちにとっても同じでした。
画家ならば誰しもが手に入れて描きたいと思うのは当然のことです。
画家の中には、お金持ちのパトロンに買ってもらう人、耳を切ってでも手に入れたいと願う人や、多額の借金をしている人も多くいたと言います。
ウルトラマリンブルーをふんだんに使用したフェルメールでさえも、手に入れる為に家族が大変苦労したと言われています。

想像でしかないですが…
古の画家たちも、普通の絵の具だと重ねてもそこまでの表情が出せない “岩絵の具” が作り出す質感に囚われ、粒子状の光の乱反射が生み出す色合いの奥深さにすっかり魅了されたのかもしれませんね。

神聖な青

青色は、空であったり… 宇宙や海であったり…
私達の身近にいつでも当たり前に存在するというのに、
抱きしめることも、手にすることもできない神聖で尊い色です。

手に入れることができないだけに、人間は青に憧れ青を描くのではないでしょうか?
あのバベルの塔が、もろくあっけなく崩れ去ってしまったように…。
人間がその崇高な領域に近づく事は、神の領域に触れ、いつかその怒りの天罰が降りるような…。
そんな妄想を膨らませる一方で…、翻弄される自分を楽しみながら、
この辺でおしまいにいたします。

ライター:綺羅子

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